与えられた時間は150分。 その時が来るまでの時間は短く長い。 ふと外の方を眺めるが、人の息のつくる塗料がさえぎってしまっている。 少しこぶしをかたく握る。頭をめぐるのは長かった1年間。 1つ1つのピースはまったくつながらず、 高速道路で見える景色のように不鮮明で素早い。 思い出すように時計を見る。まだそんなに時間は経っていない。 これから起こることが、まるで非現実であるかのように、真っ白な頭の中。 目に見えているものは見えず、聞こえているものは聞こえない。 静かに、だんだんと…あたりが静かになってゆく。 一瞬の静寂。 そしてすぐ途切れる。誰かのため息によって。 時計を見る。まだあと3分。 不意に現実が戻る。周りを取り囲む人々の気配。 何故か今まで気づかなかった、ストーブの大きな音。 針は普段の1/4の早さで進む。 目を向けるたびに同じところにいるように思える。あと30秒。 しかし期待を裏切るかのように、 目の前の時計の秒針をあざわらうかのように、 その時がやってくる。 突然の雑音。そしてすぐ静かになる。 ふと気が付けば手元は止まる。 辺りを軽く見回す。露骨にやってはいけない。 全ての記憶が元に戻る。 息をしていたこと。手を動かしていたこと。 今まで自分が人間であったこと。 気づいた瞬間動きが固くなる。 だけどまだ時間はたっぷりある。 しかし頭を駆け巡る無用な記憶。 3日前に聴いた歌。観た番組。読んだ漫画。 何度か手が止まる。 思考が混ざったまま流動する。 突然時間が経つのが早くなる。 あと30分。 手を動かす早さが増す。 考えようとするほど立ち止まる。 必死に思い出す。思い出せない。 何度も後戻りし、先へ進む。 思考よ、集中しろ。 あと15分。 1時間前よりも、時の進むスピードが8倍になってる。 鼓動は2倍。思考は1/4。 あと10分。 手は動く。思考の時間は減っていく。 鼓動に合わせて手がふるえる。 あと4分。 突然輝く精神の中枢。すべてのピースが一つになる。 だけど、嗚呼。 時間がない。 息は先刻から止まったまま。鼓動が増す。 手が動く。 もう少し… あと少し… あと一つ… 無情な試験監督者の号令。何年かぶりに息を吐く。 ■これは僕が受験のときに書いた文章です。 ■形式には特にこだわらず、詩のようなよくわからんような文章になってます。 ■試験当日の、開始直前の緊張と、終了間近の焦燥感ってのは誰にとっても嫌なもんですよね? ■その辺りが、読んだ人に感じ取ってもらえたらうれしいです。 | |
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