自由詩 -1/4-

与えられた時間は150分。
その時が来るまでの時間は短く長い。
ふと外の方を眺めるが、人の息のつくる塗料がさえぎってしまっている。

少しこぶしをかたく握る。頭をめぐるのは長かった1年間。
1つ1つのピースはまったくつながらず、
高速道路で見える景色のように不鮮明で素早い。

思い出すように時計を見る。まだそんなに時間は経っていない。
これから起こることが、まるで非現実であるかのように、真っ白な頭の中。
目に見えているものは見えず、聞こえているものは聞こえない。

静かに、だんだんと…あたりが静かになってゆく。

一瞬の静寂。

そしてすぐ途切れる。誰かのため息によって。
時計を見る。まだあと3分。

不意に現実が戻る。周りを取り囲む人々の気配。
何故か今まで気づかなかった、ストーブの大きな音。
針は普段の1/4の早さで進む。
目を向けるたびに同じところにいるように思える。あと30秒。

しかし期待を裏切るかのように、
目の前の時計の秒針をあざわらうかのように、
その時がやってくる。
突然の雑音。そしてすぐ静かになる。



ふと気が付けば手元は止まる。
辺りを軽く見回す。露骨にやってはいけない。
全ての記憶が元に戻る。
息をしていたこと。手を動かしていたこと。
今まで自分が人間であったこと。
気づいた瞬間動きが固くなる。
だけどまだ時間はたっぷりある。
しかし頭を駆け巡る無用な記憶。
3日前に聴いた歌。観た番組。読んだ漫画。

何度か手が止まる。
思考が混ざったまま流動する。
突然時間が経つのが早くなる。
あと30分。

手を動かす早さが増す。
考えようとするほど立ち止まる。
必死に思い出す。思い出せない。
何度も後戻りし、先へ進む。
思考よ、集中しろ。
あと15分。

1時間前よりも、時の進むスピードが8倍になってる。
鼓動は2倍。思考は1/4。
あと10分。

手は動く。思考の時間は減っていく。
鼓動に合わせて手がふるえる。     あと4分。

突然輝く精神の中枢。すべてのピースが一つになる。
だけど、嗚呼。 時間がない。
息は先刻から止まったまま。鼓動が増す。

手が動く。

もう少し… あと少し…  あと一つ…

無情な試験監督者の号令。何年かぶりに息を吐く。
■これは僕が受験のときに書いた文章です。
■形式には特にこだわらず、詩のようなよくわからんような文章になってます。
■試験当日の、開始直前の緊張と、終了間近の焦燥感ってのは誰にとっても嫌なもんですよね?
■その辺りが、読んだ人に感じ取ってもらえたらうれしいです。
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